科学技術の高度化を着実に進め、その恩恵を確実に享受している我が国は今後、資源的にも人的にもあらゆる面で大きな可能性を有する他のアジア諸国と、競合と協調の関係を保ちながら共に将来を摸索していく必要がある。科学技術や文化そして人の交流を通じてお互いを刺激しお互いを育む姿勢こそ、健全な発展を持続したい我が国とアジア諸国には求められている。
近年、中国を始めとしてアジア諸国の経済成長には目を見張るものがある。経済成長すなわちGDPの上昇は必然的に民生の質的・量的な変化をもたらすことになる。口腔医療の視座からこの変化を追うと、GDPの上昇に比例する砂糖の消費量、この増加に伴って歯周病など口腔疾患の罹患率が急上昇する。この相関については既にWHO等のデータで実証されている。急増する歯周病患者ではあるが、相対的にアジア諸国の歯科医師不足には今後ますます拍車がかかることが予想される。
歯科医師への期待と彼らが果たすべき役割は極めて高いのである。高度な知見と技術を有する歯科医師の養成、そして口腔医療における都市と農村、中央と地方のアンバランス解消は、アジア諸国が堅調なる発展を続けていく上で緊急かつ重要な課題といえよう。
一方、我が国の海外支援、なかんずく対アジア協力の在り方に眼を転ずると、インフラの整備を主眼とする従来型から技術の高度化など知的財産の供与やそのような技術をもつ歯科医師の養成など、ともに競合し協調しうる良きパートナーを育む所謂ソフト的な支援への変革が強く望まれる段階となっていることに気づく。
では如何なる協力形態が具体的にはあるのだろうか。民生の向上に資する一つの方向は先ず、アジア諸国の歯科医・有資格者に我が国の歯科技術とノウハウを臨床的に伝え教育する「口腔医療研修総合センター」を創設することである。人口の集中する各国の都市部が候補地であろう。保存・補綴・矯正・口腔外科・小児歯科などに携わる一線の専門家を我が国から派遣する一方、日本で資格を習得した留学経験者をサブリーダーとして診療・治療・研修を実践する。臨床の場において、生きた技術移転を有資格者に施すのである。
次にこの研修総合センターと大学が合弁によって「歯科教育研修プログラム」を創り、学生の教育を通じて人材・歯科医師の養成を目指す。更にこの合弁プログラムの成果を礎として「高度教育研修機関・歯科大学院大学」の創設に向かうこととする。輩出する有資格者が歯科医院を開業し地方の医療福祉向上に寄与することを助長するサポートシステムの開発も視野に入れる。
また医療行為を助け支援する「パラメディカル・デンタルの人材養成」、すなわち看護師・衛生士・技工士などを広く育てることにも傾注する。高度な医療は医師・歯科医師のみでは実施できるものではなく、これを支えるだけの知識を持つ医療従事者の養成も欠くべからざるものである。
以上を換言すれば、高度医療研修センターと高度教育機関、そして関連施設が一体となった先端口腔医療・教育機関を最終的に完成し運用することこそ我々の目標と考えている。
我が国とアジアの各国、この2国にまたがる上記の計画を具体化するにはやはり、両国政府の理解とバックアップは不可欠と考える。これを礎に、中核となる意欲的な民間の関わりが次に望まれる。蓄積された知見とノウハウを駆使できる場を求め、そこに得られる経験を介して更にそれらをブラッシュアップしようとする発展的な歯科大学や医療法人などが候補ではなかろうか。そして更に求められるのは多くの幅広い理解と支援である。そして無理をせず可能なことから着実に展開していくことも肝に銘じておかねばならない。
健全な「歯」はヒトの生死と国の存亡に直接関わっている。のみならず健全な国際関係の養生にも少なからぬ影響を及ぼす。口腔の福祉と医療を介在してお互いに良き競争相手であり信頼できるパートナーであり続けたい日本とアジア諸国である。